LD LETTER

vol.5

2020.04  REVITALIZATION OF WATERWAY

ENVIRONMENTAL SYMBIOSIS

COMMUNITY ENRICHMENT

自由に水にさわり、入ることができる水辺環境の再生 杉並区みんなの夢水路(遅野井川親水施設)

都立善福寺公園内の上の池と下の池をつなぐ全長約160m、
幅約4mのコンクリート三面張り水路(杉並区管理地)の改修プロジェクトです。
本事業は、地域の小学校児童が
「善福寺川を水に親しめる身近な水辺にしてほしい」という思いを直接区長へ要望した結果、「みんなの夢水路整備事業」として実現しました。
改修前は管理柵や繁茂する植栽等により公園内から水面の様子は見えず、
動植物相の多様性も極めて低い環境でしたが、改修整備により、
子どもたちが自由に水にさわり、入ることができる水辺空間が再生されました。

杉並区みんなの夢水路(遅野井川親水施設)
所在地 東京都杉並区善福寺二丁目31番先(都立善福寺公園内)
主用途 水路(親水施設)
事業主 杉並区 都市整備部土木計画課
設計 株式会社ランドスケープデザイン
設計協力 株式会社地域環境計画 景域計画株式会社
施工 東武緑地株式会社
水路延長 約160m

親水テラスへ向かう園路

緩やかに流れる水面に沿って計画された園路は、改修前には水路の存在さえ知らなかった多くの公園利用者へ本来の公園風景を発信する場となっています。

平面計画図

断面図

都立善福寺公園との一体的整備/環境配慮型設計

都立善福寺公園を管理する東京都東部緑地公園事務所との協議により、区が管理する水路用地と隣接する都立公園との一体的整備が可能となりました。その結果、片側護岸の撤去とともに、公園広場と連続する草地広場、車いすやベビーカー利用者も水辺に近づける園路、休息できる親水テラスなどが整備され、公園利用者が日常的に水の流れや音を感じる環境が実現しました。また、多摩産材のベンチや流域内調達した川石を使用した水路護岸等による地産地消の促進、撤去護岸コンクリート殻のじゃかご擁壁中込材への再利用等、環境配慮に重点をおいた設計を行いました。

地域性種苗による護岸植生

監理段階では納品種苗の産地確認(トレーサビリティ管理)や現場での種苗の生育環境を踏まえた植付け指導等により、生物多様性の高い護岸植生を実現しました。

変化可能な柔らかい護岸

水路内は、モルタルで固定しない砂利や川石(流域内調達)による護岸とすることで、子どもたちが自由に流路や護岸形状等を変化させることができる柔らかい護岸としています。

 

護岸撤去時に公園が造成される前の地層(現況地盤マイナス約2.0m)から埋土種子を採取

水路と上の池・下の池との関係性可視化することで都立善福寺公園全体の水収支を把握

定量的データにもとづく水辺環境設計

護岸植栽は、自然環境調査結果(植物、昆虫、陸域動物、水生生物等)や樹木伐採で生じる光環境の変化等も踏まえて、
整備エリア毎に環境目標指標を設定し、約40種の地域性種苗等により遺伝的な地域生態系環境の再生を試みています。
また、水路設計では、水路と上の池・下の池との関係性可視化、水路の水質、水位、水温の定点測定、水路水源の一部
となる上の池の過去6年間の水位変化のグラフ化等、 定量的データによる水路全体の水収支モデルをもとに、最大降雨
時の水位上昇をシミュレーションし、水路構造(越流堰高さ、水路幅、水深等)を決定しました。

観察デッキ

水路全体を一望できる張り出して設置された観察デッキは、早朝には野鳥を観察する絶好のポイントとなっています。

同一地点からみた水路内の様子

改修前はセキショウ等で覆われていた薄暗い水路内が、小さな子どもたちも安全に近づける明るい水辺環境として生まれ変わりました。

様々な主体との協働によるデザインプロセス

改修設計の検討は、地域の小学校児童が作成した水路の整備イメージをもとに、地域住民を含めたワークショップで整備内容の深化を図りながら詳細設計を行いました。工事中には有志による埋土種子の採取や小学校児童による種苗植付け、改修後にはワークショップ参加者主体で組成された団体による水路の管理運営(区と協定締結)が開始される等、事業初期段階から様々な主体が有機的に連携することで、子どもたちの夢が質の高い空間とともに実現しました。

※写真提供:鳥飼 祥恵